現在の世界は第4次産業革命の最中にあると言われています。第4次産業革命の概念が広く知られるようになったきっかけは、2016年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(World Economic Forum、略称:WEF)の年次総会において、WEFの創設者であり会長のクラウス・シュワブが主導して第4次産業革命をテーマに据えたフォーラムを開催したことでした。このイベントによって世界中のビジネスリーダーや政策立案者、学者などがこの概念に注目することになり、第4次産業革命という用語自体、そしてそれが意味する社会的および経済的変化への理解が全世界に広まる契機となりました。
第4次産業革命はデジタル技術が主導する産業革命であり、これまでの産業革命と比べて速度、範囲、システムの影響の深さにおいて異なるとされています。インターネット技術とデジタル化がもたらす経済や社会への影響が極めて大きいこと、これら技術が人々の生活、仕事のあり方、さらには産業構造自体を根本から変えること、が世界中の認識となっています。この革命は、人工知能(AI)、ロボティクス、インターネット・オブ・シングス(IoT)、自動運転車、3Dプリンティング、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、エネルギー貯蔵、量子コンピューティングなど、多岐にわたる技術進歩によって特徴付けられるものです。
世界経済フォーラムは、第4次産業革命に関連する課題に取り組むための国際的なイニシアティブやプラットフォームを提供しており、産業界と政府、学術界が協力して、これら新しい技術が社会に与える影響を理解し、適切に対応するための方策を模索しています。また、これらの技術進歩に伴う倫理的な問題や、雇用への影響、プライバシーの保護、セキュリティの強化など、多くの重要な議論が引き続き行われています。
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第4次産業革命への対応において日本は大きな課題に直面しています。それは、企業・団体などのデジタル技術導入の遅れと、これらの技術を効果的に活用するための人材不足です。日本企業の多くは伝統的な業務プロセスや組織構造に依存しており、デジタル技術の導入を推進するためには企業文化の変革が必要であると考えられていますが、そのような改革に取り組むリーダーの不足が懸念されています。また、人材不足に関して、経済産業省では、AI/IT人材が2030年までに最大約79万人不足すると試算しています。
第4次産業革命を支える人材育成には教育制度の改革が不可欠であるとの指摘もあり、STEM教育(科学 Science、技術 Technology、工学 Engineering、数学 Mathematics の分野を統合的に学ぶ教育アプローチ)の充実とプログラミングやデータサイエンス教育の強化が必要であると考えられています。これらのスキルは学校教育に組み込まれるべきであるとの考えから高校における情報科目の必修化や大学教育におけるリテラシーレベルのデータサイエンス科目の導入などが我が国でも進められてきました。さらに、職業訓練の場でも実践的なデジタルスキルを学べる環境を整えることが求められており、社会人教育では、従業員が技術革新に適応できるよう、リスキリングやアップスキリングの機会を提供することが企業には必要とされ、政府においてもこれを支援するための補助金や税制優遇措置の提供などが検討されてきました。
様々な人材養成の取り組みを通じて、日本が第4次産業革命の波に乗り遅れないことが重要です。そのために、デジタル人材の養成こそが経済の活性化と持続可能な成長を果たす唯一の道であると思われます。デジタル技術の導入と人材育成の双方において革新的な取り組みを推進することが、日本の将来を切り拓く唯一の道ではないでしょうか。
残念ながら日本は第4次産業革命への対応に遅れをとっています。失われた30年とも揶揄される経済の停滞が、産業革命の最中に必要な企業・組織の改革に取り組む柔軟性を阻み、人材養成の必要性に目を向けてこなかったように思えます。我が国はデータ駆動型社会を支えるデジタル人材が決定的に不足している状態です。デジタル人材の養成に先行する米国などでは種々のデジタル人材の職業名が一般にも浸透しているほどの状況で、人気職種の多くがこれらデジタル人材で占められているのが近年の様子です。
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第4次産業革命によって開発される新技術を具体的な社会課題の解決に活用する試みとして、政府が提唱しているのがSociety 5.0という概念です。
Society 5.0は、日本政府が提唱するビジョンで、日本が直面している諸問題、特に人口減少、高齢化、資源制約などに対処するための先進的な社会モデルです。Society 5.0の目標は、サイバー空間(デジタル空間)と物理空間(リアル空間)の積極的な融合を通じて、個々人のニーズに応じたきめ細やかなサービスを提供することにあります。この社会では、人工知能、インターネット・オブ・シングス、ビッグデータなどの技術が日常的に利用され、これらの技術が医療、介護、教育、災害対策など多岐にわたる分野で個人の生活を支援します。
このような技術の利用は、経済的な持続可能性を高めるだけでなく、全ての市民が社会に参加しやすい環境を創出することも意図しています。たとえば、スマートシティの構築により、エネルギー使用の効率化、交通システムの最適化、より迅速な災害対応が可能になります。さらに、これらの技術を活用して新たな産業や雇用を生み出し、経済全体の活性化に寄与することも期待されています。
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出典: 内閣府
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Society 5.0は単なる技術革新の話ではなく、これを如何にして「人間中心の社会」の実現に繋げるのか、そこが核心です。技術を使って誰もがアクセス可能で、全ての人が活躍できる社会を作ることがこのビジョンの最終的な目標であり、その達成に向けて多くの施策が進行中です。Society 5.0とはデータ駆動型社会とも言える社会です。
そして、Society 5.0を実現させるため、今の日本に何より重要なことはデジタル人材の養成である、との考えから博多大学の設置構想は生まれました。
我が国においても、ネット社会となった現在では、様々なモノがインターネットによってデータが繋がり、新たなサービスや産業が次々と生まれており、産業革命の時代を迎えています。大学における教育と研究にもこの産業革命の波は押し寄せており、全ての学問領域の教育と研究にデータの連係と活用、デジタル化への対応が求められています。
現在の日本政府が目指している、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society 5.0)」とは、IoT(Internet of Things)社会であり、まさにデータ駆動型社会であると言えます。
現在、我が国ではIoT(Internet of Things)社会を支えるデジタル人材が大規模に不足しており、失われた30年と言われている我が国経済低迷の復興に不可欠でもあるこれらデジタル人材の養成は現在の大学の社会的使命となっています。
一方で、時代を牽引するデジタル人材の養成は教員を確保しやすい首都圏・大都市圏において先行するため、地方にある大学がデジタル人材を養成するためのハードルは高くなってしまいます。そこで、九州地方においてデジタル人材の養成を速やかに進めるために、教員確保が比較的容易である九州最大都市博多の街中に大学を設置することを計画したのが博多大学です。
いつの時代にも進学を目指す若者の多くは都会志向を持ち、九州出身者も関東・関西圏に進学する学生が少なくありません。九州で都会の学生生活を実現できる博多の街は、都会志向を持つ九州出身の大学進学者に関東・関西圏以外の選択肢を与え、地元での進学と就職を実現できる九州唯一の街であると言えます。
すでに始まっているデータ駆動型社会を支えるデジタル人材を九州地域において養成して九州の地方創生を支えるために、九州でも都会型学生生活を送ることができる街中大学が必要であると考え、博多に都市型大学を設置することにしました。